新そよ風に乗って 〜焦心〜
「はい。分かりました」
「矢島さん。考課表の件、今やっちゃおう」
「はい」
高橋さんが、書類を持って席を立ったので後に続くと、会議室Aの空室の表示をスライドさせて使用中に直しながら、空いているかどうかドアの覗き穴から確認して一応ノックしてからA会議室のドアを開けた。
高橋さんは、先に私を中に入れてくれるとドアを閉めた。
「座って」
「はい……」
座るように手を差し伸べると、長机の上に書類を置いて高橋さんも座った。
目の前に見える、置かれたその書類が気になる。
高橋さんが、昨日と同じように机に両肘を突いて顎の下あたりで両手を組んだ。
「今朝の役員会の結論を言うと、人事的なことは具体的に本当は言えないんだが、矢島さんは当事者なので聞く権利もあるから」
そう高橋さんが言うと、大きく深呼吸をした。
自分の心臓の鼓動だけが大きく耳に聞こえてきて、ハンカチを持つ手に汗をかいているのが分かって、ギュッと握りしめた。
「総務の遠藤主任は、今日付で子会社に異動になった」
嘘……。
遠藤主任が、子会社へ異動? しかも、今日付って……。
もしかして、それは私の一件で左遷ということ?
「本人も承諾済みで、納得もしている。矢島さんが、別段負い目を感じることは何もないから、決して自分のせい等と思わないように」
子会社に異動だなんて、思いも寄らなかった。
「遠藤は、他にもいろいろあったから。気にするな」
高橋さん……。
優しく諭すように言ってくれている高橋さんに感謝しながら、それでも遠藤主任の異動が少しショックだった。
「それから、神田さんには感謝しないとな。彼女は、自分の立場が危うくなるかもしれない位置に在りながら、そんなことは顧みずに積極的に証言に協力してくれた。自分の氏名を出してもいいとまで言ってくれたんだ。彼女の機転と勇気に感謝しないといけない。あの場で証拠を確保できたことは、本当に重要だった」
まゆみ……。
『ホホッ……。お生憎様。私の用心深さは、根っからのもの。いつ何時、何が起きるか分からないから、自分のメールアドレスは簡単で難しいものにしてるのよ』
そう言えば……あの時、まゆみが言っていた。
「アドグジム……」
「アドグジム?」
何気なく口にした言葉に、高橋さんが聞き返した。
「あの、高橋さん。アドグジムって、何ですか?」
「アドグジム?」
「矢島さん。考課表の件、今やっちゃおう」
「はい」
高橋さんが、書類を持って席を立ったので後に続くと、会議室Aの空室の表示をスライドさせて使用中に直しながら、空いているかどうかドアの覗き穴から確認して一応ノックしてからA会議室のドアを開けた。
高橋さんは、先に私を中に入れてくれるとドアを閉めた。
「座って」
「はい……」
座るように手を差し伸べると、長机の上に書類を置いて高橋さんも座った。
目の前に見える、置かれたその書類が気になる。
高橋さんが、昨日と同じように机に両肘を突いて顎の下あたりで両手を組んだ。
「今朝の役員会の結論を言うと、人事的なことは具体的に本当は言えないんだが、矢島さんは当事者なので聞く権利もあるから」
そう高橋さんが言うと、大きく深呼吸をした。
自分の心臓の鼓動だけが大きく耳に聞こえてきて、ハンカチを持つ手に汗をかいているのが分かって、ギュッと握りしめた。
「総務の遠藤主任は、今日付で子会社に異動になった」
嘘……。
遠藤主任が、子会社へ異動? しかも、今日付って……。
もしかして、それは私の一件で左遷ということ?
「本人も承諾済みで、納得もしている。矢島さんが、別段負い目を感じることは何もないから、決して自分のせい等と思わないように」
子会社に異動だなんて、思いも寄らなかった。
「遠藤は、他にもいろいろあったから。気にするな」
高橋さん……。
優しく諭すように言ってくれている高橋さんに感謝しながら、それでも遠藤主任の異動が少しショックだった。
「それから、神田さんには感謝しないとな。彼女は、自分の立場が危うくなるかもしれない位置に在りながら、そんなことは顧みずに積極的に証言に協力してくれた。自分の氏名を出してもいいとまで言ってくれたんだ。彼女の機転と勇気に感謝しないといけない。あの場で証拠を確保できたことは、本当に重要だった」
まゆみ……。
『ホホッ……。お生憎様。私の用心深さは、根っからのもの。いつ何時、何が起きるか分からないから、自分のメールアドレスは簡単で難しいものにしてるのよ』
そう言えば……あの時、まゆみが言っていた。
「アドグジム……」
「アドグジム?」
何気なく口にした言葉に、高橋さんが聞き返した。
「あの、高橋さん。アドグジムって、何ですか?」
「アドグジム?」