新そよ風に乗って 〜焦心〜
高橋さんが首を傾げながら、右手の親指と人差し指で顎を掴んだ。
「まゆみ……あっ。神田さんが、あの時言っていたんです。いつ何時、何が起きるか分からないから、自分のメールアドレスは簡単で難しいものにしてると。それが、私には分からなくて……」
アドグジムって、何なんだろう?
「簡単で難しいものか……何なんだろうな。じゃあ、時間もないから、考課表の訂正をしてもらいたい」
「あっ。はい」
高橋さんは、そう言いながら机の上に置いてあったファイルから、提出した考課表を取り出した。
「まず……。此処」
まず?
「はい」
「書類の正確で、迅何とかな処理を心掛ける。とあるが、これは何だ?」
「えっ?」
高橋さんが考課表を私の方に向けて、その部分に指を指した。
「あっ。す、すみません。それは、迅速の間違いです」
「そうだよな。迅略がどんな意味なのか、思わず辞書引いたが載ってなかった」
うっ。
何気なく冷ややかに、高橋さんに言われてしまった。焦りながら、消しゴムで消して書き直すと、高橋さんの左手の綺麗な人差し指が無言でその下を指した。
電話応答?
あっ……。
「す、すみません。電話応対です」
顔を上げて高橋さんに告げると、高橋さんは無言で頷いた。
また消して書き直したが、その後、高橋さんは何処にも指を指さなかったので少し安心しながら顔を上げた。
もう、ないよね?
「それから……」
エッ……。
まだ、あるの?
「最後の一行。悪いが、俺の読解力がないのか、理解できない」
はい?
「もう一度、自分で声に出して読んでみてくれ」
「は、はい。会計の仕事内容を今まで以上に理解し、他の担当部署からの問い合わせにもその場でに応対できるにように心掛にる」
何、これ? 何を書いてるんだ、私。
「すみません……」
恐る恐る顔を上げて高橋さんを見ると、右手で作った拳を縦に口元に押しつけながら笑いを堪えていた。
「どう考えても、おかしいだろう? 恐らく、誰も理解できない」
ああ、恥ずかしい。
「いいか?」
高橋さんの声のトーンの変化と同時に、表情が真顔になった。
「人に渡す、人に渡る書類の内容には、どんな場合においても誰が読んでも分かる内容を書かなければいけない。自分だけが分かる内容では提出書類とは言えず、行使の目的を持たない私文。つまり走り書きのようなものと同じだ。組織の中に居る人間は、誰が見ても、読んでも理解出来る書類作りを心掛けなければいけない。無論、矢島さんが書いたこの文章にもあるように、担当者が在籍していれば問い合わせにも応対できるだろう。だが、担当者が居なくとも、書類を見ただけで誰もが理解できる書面作りを心掛けることも大切だ」
「はい。申し訳ありません」
「そのことも、この文章に付け加えて記載したらどうだろう?」
「は、はい。そうします」
高橋さんに言われた内容も書き直した時に一緒に書き入れ、書き終えた考課表を高橋さんの方に向けて渡した。
「よろしくお願いします」
「まゆみ……あっ。神田さんが、あの時言っていたんです。いつ何時、何が起きるか分からないから、自分のメールアドレスは簡単で難しいものにしてると。それが、私には分からなくて……」
アドグジムって、何なんだろう?
「簡単で難しいものか……何なんだろうな。じゃあ、時間もないから、考課表の訂正をしてもらいたい」
「あっ。はい」
高橋さんは、そう言いながら机の上に置いてあったファイルから、提出した考課表を取り出した。
「まず……。此処」
まず?
「はい」
「書類の正確で、迅何とかな処理を心掛ける。とあるが、これは何だ?」
「えっ?」
高橋さんが考課表を私の方に向けて、その部分に指を指した。
「あっ。す、すみません。それは、迅速の間違いです」
「そうだよな。迅略がどんな意味なのか、思わず辞書引いたが載ってなかった」
うっ。
何気なく冷ややかに、高橋さんに言われてしまった。焦りながら、消しゴムで消して書き直すと、高橋さんの左手の綺麗な人差し指が無言でその下を指した。
電話応答?
あっ……。
「す、すみません。電話応対です」
顔を上げて高橋さんに告げると、高橋さんは無言で頷いた。
また消して書き直したが、その後、高橋さんは何処にも指を指さなかったので少し安心しながら顔を上げた。
もう、ないよね?
「それから……」
エッ……。
まだ、あるの?
「最後の一行。悪いが、俺の読解力がないのか、理解できない」
はい?
「もう一度、自分で声に出して読んでみてくれ」
「は、はい。会計の仕事内容を今まで以上に理解し、他の担当部署からの問い合わせにもその場でに応対できるにように心掛にる」
何、これ? 何を書いてるんだ、私。
「すみません……」
恐る恐る顔を上げて高橋さんを見ると、右手で作った拳を縦に口元に押しつけながら笑いを堪えていた。
「どう考えても、おかしいだろう? 恐らく、誰も理解できない」
ああ、恥ずかしい。
「いいか?」
高橋さんの声のトーンの変化と同時に、表情が真顔になった。
「人に渡す、人に渡る書類の内容には、どんな場合においても誰が読んでも分かる内容を書かなければいけない。自分だけが分かる内容では提出書類とは言えず、行使の目的を持たない私文。つまり走り書きのようなものと同じだ。組織の中に居る人間は、誰が見ても、読んでも理解出来る書類作りを心掛けなければいけない。無論、矢島さんが書いたこの文章にもあるように、担当者が在籍していれば問い合わせにも応対できるだろう。だが、担当者が居なくとも、書類を見ただけで誰もが理解できる書面作りを心掛けることも大切だ」
「はい。申し訳ありません」
「そのことも、この文章に付け加えて記載したらどうだろう?」
「は、はい。そうします」
高橋さんに言われた内容も書き直した時に一緒に書き入れ、書き終えた考課表を高橋さんの方に向けて渡した。
「よろしくお願いします」