新そよ風に乗って 〜焦心〜
「あ、あの、メールって……」
「仕事の件で、何かあったら遠慮なく連絡してくれて構わないぞ」
仕事の件……。
「あっ……は、はい。ありがとうございます」
そうだよね。馬鹿みたい。
高橋さんが、メールしていいなんておかしいと思った。
「移動中だったりすると、少し時間が掛かるかもしれないが、必ず連絡するから」
プライベートでメールしていいなんて、あるわけないのに。
「はい。出張中、高橋さんも気をつけて」
「ありがとう」
「それじゃ、失礼し……」
「ああ、それから」
エッ……。
「これだけは、覚えておいた方がいい」
何? これだけは、覚えておいた方がいいって。
「人間、誰しも自分がやったことは、必ず自分に返ってくる。それが、正しいことだろうと、誤ったことだろうと」
高橋さん……。
「因果応報っていうだろう? この言葉、悪い意味で使われがちだが、善悪両方に当てはまる言葉だ。一慨に行動だけを指すとは限らない。行動にも、言動にも当てはまる。そういうものだ」
高橋さんは、いったい何を言いたいの?
「あの……」
「言わなければ、伝わらない。特に、電話だとな」
高橋さん。
「それじゃ」
電話の切れる冷たい音を聞いてから暫く携帯を見つめていたが、ふと我に返ってベッドの上に静かに置いた。
『言わなければ、伝わらない。特に、電話だとな』
高橋さん……本当は、聞きたかった。
あの女性は誰なのか。何処に行ったのか。聞きたいことが、いっぱいあった。だけど、聞いたところで何もならないことも分かっていた。
でも高橋さんは、そんな私の何かを察していたの? あの女性のことは、ひと言も口に出さなかったのに、何故?
『人間、誰しも自分がやったことは、必ず自分に返ってくる。それが、正しいことだろうと、誤ったことだろうと……言わなければ、伝わらない。特に、電話だとな』
何故、あんなことを言ったの?
ベッドの上に置いた携帯を見つめながら、さっきから電話している間も小瓶をギュッと握っていた右手を膝の上に置いて手を開いた。
「自分がやったことは、必ず自分に返ってくる……」
小瓶を見ながら、そう呟いてみた。
『お前がそう思っているのなら、それでいい。話すことは、もうない』
高橋さんの真意を聞きたかった。
上司として接してくれているのか、それとも……。
でも、タクシーに一緒に乗っていった女性の存在を考えると、やっぱり高橋さんは上司として私に接してくれていたんだと思えて……そう思うと、怖くて聞けなかった。上司としてなのかも、あの女性のことも。
掌にのった小瓶は捨てるつもりだったのに、捨てようとしていたところで高橋さんから電話があって、何となく決意が薄れてしまったというか、気持ちが揺らいで捨てられなくなってしまった。
けれど、目に付くところに置いておくのはやめようと思い、ベッドの横の引き出しの奥に追いやるようにして押し込んだ。これなら何処に置いたのか忘れてしまっても、それはそれでいいと思えた。
「仕事の件で、何かあったら遠慮なく連絡してくれて構わないぞ」
仕事の件……。
「あっ……は、はい。ありがとうございます」
そうだよね。馬鹿みたい。
高橋さんが、メールしていいなんておかしいと思った。
「移動中だったりすると、少し時間が掛かるかもしれないが、必ず連絡するから」
プライベートでメールしていいなんて、あるわけないのに。
「はい。出張中、高橋さんも気をつけて」
「ありがとう」
「それじゃ、失礼し……」
「ああ、それから」
エッ……。
「これだけは、覚えておいた方がいい」
何? これだけは、覚えておいた方がいいって。
「人間、誰しも自分がやったことは、必ず自分に返ってくる。それが、正しいことだろうと、誤ったことだろうと」
高橋さん……。
「因果応報っていうだろう? この言葉、悪い意味で使われがちだが、善悪両方に当てはまる言葉だ。一慨に行動だけを指すとは限らない。行動にも、言動にも当てはまる。そういうものだ」
高橋さんは、いったい何を言いたいの?
「あの……」
「言わなければ、伝わらない。特に、電話だとな」
高橋さん。
「それじゃ」
電話の切れる冷たい音を聞いてから暫く携帯を見つめていたが、ふと我に返ってベッドの上に静かに置いた。
『言わなければ、伝わらない。特に、電話だとな』
高橋さん……本当は、聞きたかった。
あの女性は誰なのか。何処に行ったのか。聞きたいことが、いっぱいあった。だけど、聞いたところで何もならないことも分かっていた。
でも高橋さんは、そんな私の何かを察していたの? あの女性のことは、ひと言も口に出さなかったのに、何故?
『人間、誰しも自分がやったことは、必ず自分に返ってくる。それが、正しいことだろうと、誤ったことだろうと……言わなければ、伝わらない。特に、電話だとな』
何故、あんなことを言ったの?
ベッドの上に置いた携帯を見つめながら、さっきから電話している間も小瓶をギュッと握っていた右手を膝の上に置いて手を開いた。
「自分がやったことは、必ず自分に返ってくる……」
小瓶を見ながら、そう呟いてみた。
『お前がそう思っているのなら、それでいい。話すことは、もうない』
高橋さんの真意を聞きたかった。
上司として接してくれているのか、それとも……。
でも、タクシーに一緒に乗っていった女性の存在を考えると、やっぱり高橋さんは上司として私に接してくれていたんだと思えて……そう思うと、怖くて聞けなかった。上司としてなのかも、あの女性のことも。
掌にのった小瓶は捨てるつもりだったのに、捨てようとしていたところで高橋さんから電話があって、何となく決意が薄れてしまったというか、気持ちが揺らいで捨てられなくなってしまった。
けれど、目に付くところに置いておくのはやめようと思い、ベッドの横の引き出しの奥に追いやるようにして押し込んだ。これなら何処に置いたのか忘れてしまっても、それはそれでいいと思えた。