新そよ風に乗って 〜焦心〜
高橋さんの香り……大事な宝物だった。
自然と過去形になってしまっていることが、とても寂しくて哀しいな。でも、早く気がついて良かったのかもしれない。私には……。
エッ……。
高橋さんの電話を切ってから、ずっとベッドに座ったままの状態だったが、そのベッドの上に置いていた携帯がまた鳴り出したので、驚いて慌てて画面を見た。
まゆみ?
「もしもし」
「あっ、陽子? 良かった、繋がって。今、いい?」
「うん。家だから、大丈夫」
どうしたんだろう? 何か、あったのかな?
「あのさ。一昨日、言ってた飲み会の話なんだけど……」
「飲み会?」
「ほら、一昨日、言ってた気分転換よ」
「ああ……」
すっかり忘れていた。今週の週末にどうとかって、まゆみが言ってたんだった。でも、まだそんな気分には……。
「それでね、いろいろ考えたんだけど、週末にわざわざ出掛けるのは億劫だっていう人も居ると思うからさ。だから27日の金曜日、仕事終わってから飲みに行く計画したから」
そんな……飲みに行く計画したからって。
「ま、まゆみ?」
「うん。だから、陽子も参加してね」
「えっ? わ、私、そんな急に言われても」
「だから、今電話してるんじゃない。まだ今日は土曜日だよ? 飲み会は来週の金曜日だから」
「でも、私……」
「でもじゃなーい。言ったでしょ? 気分転換するつもりで、来ればいいんだから。たまには違う所属の男子と話すのも、新鮮でリフレッシュ出来るからいいかもよ? 来るのは全員同期だから、気兼ね要らないしさ」
全員って、もうそんなに話が進んでいるの? まゆみの行動力には、いつも驚かされる。だけど、大人数だとちょっと嫌だな。
「何人ぐらい来るの?」
「5対5よ。ちょうどいいでしょう?」
「そ、そうなんだ。やっぱり、私も行かなきゃ駄目だよね?」
「何、言ってるのよ。当たり前じゃない。そう堅く構えないで、同期と飲みに行くだけなんだから。話聞いてるだけでも、楽しいじゃない?」
「うん……そうだね。そうだよね」
まゆみは、きっと私のことを心配して計画してくれたんだ。それなのに、行かなかったら申し訳ないものね。
「そうそう、その調子だよ。それじゃ、時間と場所はメールで送るから」
「分かった。ありがとう、まゆみ」
「うん。実は、私も楽しみなんだ。エヘヘ……それじゃ、またね」
まゆみとの電話が終わってから、ふと先ほどの高橋さんとの会話を思い出した。
言わなければ、伝わらない。
確かに、何事もそうなのかもしれない。けれど、聞かなくていいことは、聞かないでおいた方がいいこともある。だから、聞かなくて良かったのかもしれない。そう思ったら、少しだけ、ざわついていた心が落ち着いた気がした。
高橋さんが出張に行ってから、日にちの経つのが遅い。仕事は中原さんと2人なので、月末に差し掛かっていたこともあって、忙しくしていてあっという間に時間が経ってしまうのだが、いつも座っている席に高橋さんが居ないので、ただそれだけで寂しい気持ちと不安な気持ちに駆られてしまう。けれど、ハッと気づいて我に返り、こんなことじゃ駄目なんだ。もう、そういう気持ちを仕事に持ち込んではいけないのにと思い直す。その繰り返しで、自分でも嫌になってしまう。
頭では分かっていても、どうしても気持ちの上でまだ整理が出来ていない。せめて、高橋さんが出張から帰ってくるまでには、仕事中は勿論、仕事以外の時でも、ちゃんと部下として振る舞えるようになっていなければ。
「やっと、今週も終わったね。長かったなあ。高橋さんが居ないから、いろいろ大変だったよね。矢島さん。なかなかフォロー出来なくて、ごめんね」
自然と過去形になってしまっていることが、とても寂しくて哀しいな。でも、早く気がついて良かったのかもしれない。私には……。
エッ……。
高橋さんの電話を切ってから、ずっとベッドに座ったままの状態だったが、そのベッドの上に置いていた携帯がまた鳴り出したので、驚いて慌てて画面を見た。
まゆみ?
「もしもし」
「あっ、陽子? 良かった、繋がって。今、いい?」
「うん。家だから、大丈夫」
どうしたんだろう? 何か、あったのかな?
「あのさ。一昨日、言ってた飲み会の話なんだけど……」
「飲み会?」
「ほら、一昨日、言ってた気分転換よ」
「ああ……」
すっかり忘れていた。今週の週末にどうとかって、まゆみが言ってたんだった。でも、まだそんな気分には……。
「それでね、いろいろ考えたんだけど、週末にわざわざ出掛けるのは億劫だっていう人も居ると思うからさ。だから27日の金曜日、仕事終わってから飲みに行く計画したから」
そんな……飲みに行く計画したからって。
「ま、まゆみ?」
「うん。だから、陽子も参加してね」
「えっ? わ、私、そんな急に言われても」
「だから、今電話してるんじゃない。まだ今日は土曜日だよ? 飲み会は来週の金曜日だから」
「でも、私……」
「でもじゃなーい。言ったでしょ? 気分転換するつもりで、来ればいいんだから。たまには違う所属の男子と話すのも、新鮮でリフレッシュ出来るからいいかもよ? 来るのは全員同期だから、気兼ね要らないしさ」
全員って、もうそんなに話が進んでいるの? まゆみの行動力には、いつも驚かされる。だけど、大人数だとちょっと嫌だな。
「何人ぐらい来るの?」
「5対5よ。ちょうどいいでしょう?」
「そ、そうなんだ。やっぱり、私も行かなきゃ駄目だよね?」
「何、言ってるのよ。当たり前じゃない。そう堅く構えないで、同期と飲みに行くだけなんだから。話聞いてるだけでも、楽しいじゃない?」
「うん……そうだね。そうだよね」
まゆみは、きっと私のことを心配して計画してくれたんだ。それなのに、行かなかったら申し訳ないものね。
「そうそう、その調子だよ。それじゃ、時間と場所はメールで送るから」
「分かった。ありがとう、まゆみ」
「うん。実は、私も楽しみなんだ。エヘヘ……それじゃ、またね」
まゆみとの電話が終わってから、ふと先ほどの高橋さんとの会話を思い出した。
言わなければ、伝わらない。
確かに、何事もそうなのかもしれない。けれど、聞かなくていいことは、聞かないでおいた方がいいこともある。だから、聞かなくて良かったのかもしれない。そう思ったら、少しだけ、ざわついていた心が落ち着いた気がした。
高橋さんが出張に行ってから、日にちの経つのが遅い。仕事は中原さんと2人なので、月末に差し掛かっていたこともあって、忙しくしていてあっという間に時間が経ってしまうのだが、いつも座っている席に高橋さんが居ないので、ただそれだけで寂しい気持ちと不安な気持ちに駆られてしまう。けれど、ハッと気づいて我に返り、こんなことじゃ駄目なんだ。もう、そういう気持ちを仕事に持ち込んではいけないのにと思い直す。その繰り返しで、自分でも嫌になってしまう。
頭では分かっていても、どうしても気持ちの上でまだ整理が出来ていない。せめて、高橋さんが出張から帰ってくるまでには、仕事中は勿論、仕事以外の時でも、ちゃんと部下として振る舞えるようになっていなければ。
「やっと、今週も終わったね。長かったなあ。高橋さんが居ないから、いろいろ大変だったよね。矢島さん。なかなかフォロー出来なくて、ごめんね」