新そよ風に乗って 〜焦心〜
「何か、家に電話が掛かってくる予定があるんだってさ」
エッ……。
柏木さん?
「そうだよね? 矢島さん」
柏木さんが、ウィンクをしながら私に問い掛けた。
「えっ? あの、それは……」
「そうなんだ。それは、残念だな。また同期会、次回も直ぐ開催するから参加してよ」
次回?
「同期会じゃなくても、これからご飯食べて帰ったりしようよ」
青木さん……。
「あっ。遅くなっちゃうから、駅まで急ごう」
柏木さん?
「おい、柏木。俺、まだ矢島さんと話して……」
「行こう。矢島さん」
「えっ? あっ、はい」
「ちょ、ちょっと待って。俺も行く」
慌てて、青木さんが後ろから追いかけて来た。
「あいつ酔っぱらってるから、しつこくてごめんね。此処で俺が時間稼ぎして店に連れて帰るから、矢島さんは行って」
「柏木さん。でも……」
「いいから、早く。あいつ、そうしないと何時までもしつこく付いてくから」
「は、はい。すみません。それじゃ」
「おやすみ」
「柏木さん。ありがとうございました。おやすみなさい」
慌てて早口で柏木さんにそう告げて、ちょうど信号が青だったので横断歩道を小走りで渡って駅に向かった。
駅のホームで後ろを振り返ったが、柏木さんと青木さんは付いてきていなかったので小さく肩を撫で下ろす。
何だか、柏木さんに悪いことをしてしまったな。
それに、あの青木さんという人は、いったいどういう人なんだろう? 柏木さんが、しつこいからと言っていたけれど……。
家に帰ってからも、何となく胸のつかえが取れないような感じで、半身浴をしながら今日あったことを思い出していた。
結局、何をやっていても高橋さんのことを思い出したり、考えたりしていて、そんな自分が情けない。これじゃ、先週末にした断捨離の意味がない。月曜日から、高橋さんが出社してくる。そのことさえ、不安でありながらも会えることが嬉しかったりして、複雑な思いが入り乱れている。
週末は、考えが堂々巡りをして想いを整理出来ないまま、月曜日の朝を迎え、出社するといつもの席に高橋さんが座っていた。
「おはようございます」
「おはよう。留守中、いろいろありがとう」
「いえ、とんでもないです。お帰りなさい」
高橋さんの声や仕草に、ドキドキしている。でも、何かホッとしているのは何故だろう?
こんなことで、今からどうするのよ。しっかりしなくちゃ。
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