新そよ風に乗って 〜焦心〜
「俺は、馬か?」
「そうだよ。何たって、生みの親がそう言ってるんだから間違いないさ」
生みの親?
「貴博のお袋さんがね……」
明良さんは、キッチンに私を誘いながら話してくれている。
「うちは、馬一頭飼ってるからって言うんだよ」
「馬一頭飼ってる……ですか?」
「そう。俺も、最初何のことかと思ったらさ。学生時代、常に冷蔵庫開けて何か食べるものはないかって漁ってたらしい。それぐらい、食べてたらしいよ。貴博は」
「それで、馬一頭……」
「そういうこと。だから、飼い葉でも与えておけばご機嫌なのよ。とも言ってた」
プッ!
飼い葉って……。
思わず、高橋さんを見てしまった。
「何だ、それ? ろくなこと言わねーよな。うちのお袋は」
高橋さんはブツブツ言いながら、それでもダイニングテーブルの上を片付けている。
「手も洗ったことだし、それでは明良さんの簡単クッキングのお時間です。今日は、プロセスチーズとアスパラの春巻きを作ります」
「美味しそう」
「でしょう? 用意するものは、プロセスチーズとアスパラ。それと春巻きの皮と塩、ブラックペッパー、小麦粉と水です」
それだけ?
「材料は、それだけですか?」
「うん。あと、油ね」
「あっ、はい」
明良さんが、話ながらリビングの方をチラッと見た。
「貴博とは、どう? その後、上手くいってる?」
「えっ?」
明良さんにいきなり聞かれて、どう応えていいか分からない。
「俺さ、分かるんだ。陽子ちゃんを見てると、本当に貴博が好きなんだなーって」
「そ、そんなこと……」
「なくは、ないでしょ?」
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