甘すぎる小悪魔に見つかったなら。
人気者王子とほんとの自分。
前日にいくら身体と体力を使ったとして。
次の日にはみっちり6限の座学。
それが,高校生と言う切ない生き物なのである。
そんなものを左足の筋肉痛に染々と感じながら,私は階段に足をかけ,上った。
次の授業は,小学校とは違い当たり前にある移動教室だから。
楽しくは無いものの得意な,音楽の実技である。
「あ」
「どした? あゆ」
「もーちゃん。あのね,んーと……先行ってていーよ!」
見たことのある顔が見えて,私はもーちゃんから離れた。
皆が前に進む階段の上。
知り合いがと説明する時間はない。
もーちゃんは驚いたように声をあげたものの,私だから仕方ないと諦めて歩いていく。
それを横目で見た私は人の列を抜け,階段下に頭を突きだし,声を張る。
皆は手すりのある方を通るから,問題はない……はず,少しくらい。
「……十和!」
私の声を憶えていたのか,単に呼ばれたからなのか。
十和は簡単に振り返った。
湿った髪の毛から,体育の後だと分かる。
先生の都合……だっけ?
お陰で1年は,体育理論と言いつつの球技大会の感想書きタイムが後日に回ったと聞いた。
つまり,昨日さんざんやったバレーを,今度は体育館で再度やらされたのだろう。
とても可哀想。
お疲れ,とは言葉にせず,ふりふりと私は手を振った。