スキがない総長の大胆な溺愛
ハサミの持ち手を握る。

穴の中に、静かに指を通す。

そしてハサミを机から持ち上げ、蒼羽に近づいた。

音もなく。気配もなく。

一切の隙もなく。



「スー…」

「……っ」



規則正しい寝息を立てて、無防備に眠っている。

こんなに隙がある蒼羽は、きっと初めて。


今ならなんだって出来る。

今なら、どんな復讐だって出来る。


復讐すれば、ベッドの上でうなされた優利の無念を晴らせるし、おばさんの悲しい顔だって浮かばれる。


そう。

だから今やるんだ。

私の思いつく方法で、出来る限りの復讐を――



そう…思っていたのに。



カチャン



私はハサミをいつもの位置に戻す。

刃先を蒼羽に向けることなく、片付けた。



「(ごめん優利…ごめん、おばさん…)」



私は目の前の蒼羽を、

ハサミでも言葉でも…

どんな物を使っても、傷つける事が出来ない。



今やっと、その事に気づいた。


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