ひだまりで誓う桜色の愛
おもむろに言葉を紡ぎながら顔を上げた沢村くん。


眉間に刻まれた深いシワ、震える唇。

この表情からわかるのは──彼は今、何かに囚われているということ。

それは決して、喜びに満ち溢れた幸せなものではなく、表情を歪ませるくらい辛く苦しいものなのだと。



「……未練があるんだ。元カノに」

「そう、だったんだ。……あまり良くない別れ方、しちゃったとか?」

「うん。俺のせいで、喧嘩別れしちゃって。謝りたくても、謝れなくて」



言葉1つ1つに激しい後悔を感じる。


別れたら連絡が取れなくなる……あるある、なのかな。

私の友達も、彼氏と別れた後は、『こっちからは一切連絡しない』『新しい恋の邪魔だからしばらくはブロックする』って言い切ってたから。

負った傷が深ければ深いほど、元カレとは距離を置きたくなるのかも。



「もう……いないんだ」

「え?」



震え始めた両手をそっと握りしめ、覗き込むように顔を近づける。



「俺の元カノ……もう、この世にいないんだ」



ハッキリと耳に届いた弱々しい声が、心臓を大きく鳴らした。

頬を撫でていった風は、3月中旬とは思えないくらいとても冷たかった。
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