ひだまりで誓う桜色の愛
質問に答えていたら、当時の記憶がよみがえってきた。


あれは、父にお弁当を届けた帰り道──。



『もう、5杯も飲むからよ』

『だって、初めてでわからなかったんだもん』



診察時間終了間際、速歩きでロビーに向かっていると、閑散とした待合スペースにポツンと立つ親子が目に入った。


上下ジャージ姿の母親と、車椅子に乗った制服姿の女の子。

当時、病院内で注目を浴びていた、“例の患者さん”だと気づいた。


しかし、他人に声をかけるのは困っている場合のみと決めていたのでスルー。

というか、会話に耳を傾ける余裕がなかった。


実はその日、中間テスト1日目。
急な配達で勉強時間が減り、めちゃくちゃ焦っていたから。

なんか言い争ってるな〜と思いながら、目もくれず出口へ直行。


したのだけれど……。



『無理。漏れちゃう』



後ろから切羽詰まった声が聞こえて、ピタッと足を止めた。
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