ひだまりで誓う桜色の愛
『ねぇまだ? 漏れちゃう』

『ちょっと待って。今探してる』

『早くして。漏れちゃう』

『だからちょっと待って』

『急いで。漏れちゃう』



ツボに入ってしまい、プルプルと肩を震わせる。


おいおい、人が少ないからって連呼しすぎだろ。

スポーツ校の生徒なだけあって、押しが強い性格なのか?


繰り返されるSOS。さすがにこれは放っておけない。回れ右をして再び病院内へ。

笑いをこらえつつ、地図を凝視する親子の元に向かったのだが──。



『漏れちゃう。漏れちゃう。漏れちゃう』



呪文のごとく何度も呟く姿を見た瞬間、心臓がドクンと音を立てた。


虚ろな目、光が灯っていない瞳、青白い肌。

声に感情が表れている反面、顔には生気が全く感じられなくて。

まるで、壊れた生き人形のようだった。


急いで駆け寄り、多目的トイレに案内。

母親の弾丸トークで少々遅くなってしまったが、なんとか間に合い、事なきを得た。



「俺は勉強、千早さんはトイレのことでいっぱいだったから、そもそも自己紹介どころじゃなかったんだよ」

「へぇ〜。運命の出会いって案外しょぼいんだね」
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