とろける程の甘美な溺愛に心乱されて~契約結婚でつむぐ本当の愛~
両親が営む小さな工場の敷地内にも桜の木があって、いつも友達と一緒に日が暮れるまで遊んだ。


ひときわ存在感を示すその木は、みんなの安らぎの場所になっていた。


つらいことや悲しいことがあった時、両親と一緒に眺めては、


『春の一瞬の間しか咲かない桜は、散りゆく最後の瞬間まで、何の文句も言わずにただ一生懸命美しく咲いている。散っていくその時でさえも美しい。私達も人生何があろうと最後の最後まであきらめることなく真面目に生きていこう』


と、励まし合った。


小さな頃はあまりわからなかった意味も、大人になるにつれ、段々と理解できるようになった。


いろいろな経験を積めば積む程に、その言葉の重みを肌で感じるようになり、人生を歩む難しさを痛感していった。


決して裕福ではないごく普通の家庭だったけど、何があっても元気に生きてこられたのは、そうやって桜の木に誓ったから……


それが今も私の原動力になっているのは間違いなかった。
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