ROCKな人魚姫《前編》
そして水曜日はやってきた。
ベースを右肩にかけて、
少しの勉強道具をカバンにつめて家を出る。
実家から通っていたあたしは、1時間くらい電車に揺られながら大学に向かう。
初めての練習にわくわくする気持ちと、
メンバーとはいえ、人前でベースを弾くという緊張と、
今までのあたしの気持ちがあふれ出して、
心は穏やかじゃなかった。
いつもよりも最寄駅に着くのが早く感じ、あわてて電車を降りる。
大学が見えるにつれ、あたしの鼓動も次第に激しくなっていった。
喫煙所を横目に、まっすぐ部室へと向かう。
ちらっと高明くんの姿が見えた気がしたけれど、練習終わってからでもよいやと思い、声もかけず歩いた。
部室棟と呼ばれる大学の端のほうにある、ちょっと他の校舎よりは古臭い建物。
ここの地下にバンドサークルの部室がある。
日の当らない、ひんやりとした廊下。
その先の重たい防音扉の先が部室。
あたしたちが、初めて音を合わせる場所。