好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(変なの。まるで殿下に口説かれているみたい。そんなこと、あるはずがないのに)


 変な期待を抱かぬよう、メリンダは心のなかで自分を笑う。

 妄想の一端が実現したからといって、何になるというのだろう? そもそも彼は婚約が決まったというし、メリンダに恋心を抱いているはずがない。王太子として、使用人の頑張りを労おうとしてくれているだけだ。


「ありがとうございます。そんなふうに言っていただけて、とても嬉しいです。殿下からのお言葉を胸に、これからも頑張りたいと思っています」


 メリンダが言えば、ステファンは目を丸くし、不満げに表情を曇らせる。どうしてそんな顔をするのか分からなくて、メリンダはそっと首を傾げた。


「あの、殿下……?」

「もしかしてメリンダは、僕に興味がないのだろうか?」

「え? そんな、まさか……そのようなことはございませんが」


 興味がない? 寧ろその逆。

 本当は好きで好きでたまらなかった。婚約者ができた今だって、その気持ちはちっとも変わっていない。

 当然、本人にそんなことは言えないので、メリンダは心のなかでそっと抗議をする。


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