好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 その日の午前中、レヴィはアリスの父親である伯爵に呼び出された。
 内容はやはりアリスの結婚のことで、これから彼や他の使用人たちのすべきことを整理するためのものだった。


「お相手はアンゼルジャン侯爵ですか……」

「ああ。あちらとは事業の兼ね合いもあって、関係性を深めておきたいからね」


 ここ伯爵領では銀細工を取り扱っており、宝石の産地であるアンゼルジャン領との関わりが大きい。銀細工単体の収益も当然あるが、宝石とセットのほうが何十倍も利益が上がる。つまり、アンゼルジャン侯爵との結婚は両家の結びつきを深めるための政略結婚ということだ。


「これ以上ないほど素晴らしい縁談だと思います。家柄も良く、大層な資産家でいらっしゃいますし、我が国における影響力も大きい。何より、アンゼルジャン侯爵は見目麗しい貴公子として有名ですし、お嬢様と似合いの夫婦となるでしょう」


 レヴィはそう言って、キラキラと瞳を輝かせる。
 侯爵家に嫁いだら、アリスは今よりも良い生活が送れるだろう。社交界での活躍の場も多いだろうし、みながアリスに羨望の眼差しを送るに違いない。政略結婚の相手として、これ以上の相手はいないだろう。


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