好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「ありがとう、レヴィ。私もそう思って彼を結婚相手に選んだんだ。
ただ……当のアリス本人は『結婚をしたくない』と相当ゴネていたがね。他に好きな人がいるから、と」
困ったように微笑みつつ、伯爵はレヴィのことを見つめる。
彼にはアリスの想い人が誰なのか、ハッキリと分かっているのだろう。レヴィは気づかぬふりをしようか散々迷い――――止めた。ゆっくりと頭を下げながら「申し訳ございません」と声を絞り出す。
「頭を上げなさい、レヴィ。君が悪いわけではないのだから」
「しかし……」
「人の感情――――恋心というものは制御できるものではない。あの子が君を好きになったこと自体、悪いことだとは私は思っていないよ。
そもそも、君を使用人として採用したのはこの私だ。責任の所在がどこかと問われたら、それは私にあるだろう。
何より、私は娘があれほど聞き分けがないとは思わなかったからね。あの子は貴族としての自分の責務を自覚しているに違いない、と」
伯爵の声音には悔恨の滲んでいる。
(旦那様……それは私も同じ気持ちです)
アリスはきっと、最後には自分の運命を受け入れるものと思っていた。
レヴィへの想いは胸に秘め、貴族として、政略結婚を受け入れるものだと。
だから、あんなふうに部屋を訪れ、キスをされるだなんて全く思っていなかったのだ。
ただ……当のアリス本人は『結婚をしたくない』と相当ゴネていたがね。他に好きな人がいるから、と」
困ったように微笑みつつ、伯爵はレヴィのことを見つめる。
彼にはアリスの想い人が誰なのか、ハッキリと分かっているのだろう。レヴィは気づかぬふりをしようか散々迷い――――止めた。ゆっくりと頭を下げながら「申し訳ございません」と声を絞り出す。
「頭を上げなさい、レヴィ。君が悪いわけではないのだから」
「しかし……」
「人の感情――――恋心というものは制御できるものではない。あの子が君を好きになったこと自体、悪いことだとは私は思っていないよ。
そもそも、君を使用人として採用したのはこの私だ。責任の所在がどこかと問われたら、それは私にあるだろう。
何より、私は娘があれほど聞き分けがないとは思わなかったからね。あの子は貴族としての自分の責務を自覚しているに違いない、と」
伯爵の声音には悔恨の滲んでいる。
(旦那様……それは私も同じ気持ちです)
アリスはきっと、最後には自分の運命を受け入れるものと思っていた。
レヴィへの想いは胸に秘め、貴族として、政略結婚を受け入れるものだと。
だから、あんなふうに部屋を訪れ、キスをされるだなんて全く思っていなかったのだ。