好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「私は――――貴女が望むような誠実な男ではございません」


 そう口にしつつ、レヴィは自分に呆れてしまう。


 本当ならば『アリスのことを女性として見れない』、『そういう意味で好きになれない』と伝えれば済む話だ。もちろん、アリスは傷つくだろうが、下手にこの状況を引き伸ばすよりもずっと良い。


 けれどレヴィは、アリスへの想いだけは、どうしても嘘を吐くことができなかった。

 アリスの結婚が決まって以降も彼はアリスのことが大切だと、幸せになって欲しいと言い続けていたし、完全に突き放すことができなかった。想いを殺すことができなかった。

 何もかもが中途半端。本当に、自分が嫌になる。


 このままアリスを攫って、一緒になる道を想像したことは一度や二度じゃない。

 けれどその度に、アリスが幸せになれるかを想像し――――『否』という結論に達する。


(私ではお嬢様を幸せにできない)


 分かっている。
 分かっているのに、こうして結婚までの日々を重ねながら、どこかに違う道が落ちてないものか――――それを探している自分がいるのだ。


「レヴィの馬鹿」


 アリスがレヴィを抱き締める。
 レヴィは胸が苦しくなる。目頭が熱く、涙で前がちっとも見えない。


(お嬢様……本当は私も)


 決して打ち明けることのできない想いを胸に、レヴィは肩を震わせた。


 
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