好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「そうかな? 僕にはとても、そんなふうには見えない。これではまるで、僕だけが君を想っているかのようだ」

「いえ、そんな…………って、え?」

(君を想って?)


 メリンダの聞き間違えでなければ、ステファンはたしかにそう口にした。自分の耳が信じられず、メリンダは呆然と目を見開く。


 と、そのとき、メリンダの唇を熱い何かが塞いだ。
 彼女は思わず目を瞬き、己になにが起こったのかを分析する。

 滑らかな美しい肌と、エメラルドのように綺麗な緑色の瞳、風に揺れる美しい金色の髪――――あまりにも至近距離過ぎて、メリンダにはそれしか見えない。

 腰を抱き寄せるたくましい腕、頬を撫でる手のひらの感触、それから唇を覆う温もり。心臓がバクバクと鳴り響き、上手に息ができない。


(嘘、でしょう?)


 夢だとすればあまりにもメリンダに都合が良く、けれど現実だとするならば驚くほど残酷だ。


 メリンダの好きな人――――ステファンは公爵令嬢との婚約が決まった。
 けれど今、彼はメリンダにキスをしている。


 甘くて、あまりにも苦い口づけ。
 メリンダは胸が張り裂けそうな心地がした。
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