好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
***


 それは月明かりの美しい夜のことだった。
 仕事が終わり、使用人たちが次々に部屋へと帰っていく。

 レヴィは一人の女性を伴い、屋敷の外、アリスの部屋の辺りへと向かった。


「――――本当によろしいのですか?」


 女性――控えめな侍女はためらいがちにそう尋ねつつ、レヴィと階上とを交互に見遣る。


「ええ。もう決めたことですから」


 レヴィはそう言って切なげに目を細めた。
 それから侍女の頭を優しく撫で、ギュッと力強く抱き締める。


「レヴィさん」


 風が静かに舞い上がる。声音はきっと、アリスの居る上階まで届いたことだろう。上から微かな物音がするのを確かめつつ、レヴィは静かに口を開いた。


「愛しています」


 誰かが静かに息を呑む。頭上からの視線を感じつつ、レヴィは熱い吐息を吐いた。


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