好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
***


 それから数日後、伯爵夫人は馬車に乗り、アリスの待つ侯爵領へと向かっていった。お土産話を楽しみにしていてね、と伯爵とレヴィに微笑みながら。


(ああ、本当に楽しみだな)


 仕事をしつつ、レヴィはソワソワしてしまう。


 急ごしらえではあるが、レヴィはアリスのためにできる限りの準備をした。
 喜んでほしい。想いが伝わるようにと願いを込めて。

 品物を選んでいる間中、レヴィはとても楽しかったし幸せだった。彼にもまだアリスにできることがある――――そう思えることが、本当に嬉しかった。


 夫人の帰宅は夜遅くになる予定だ。レヴィがアリスの様子を聞けるのは明朝になるだろう。
 ――――そう思っていた。


 けれどその夜。


「おかえりなさいませ、奥様」


 レヴィは夫人を乗せた馬車を恭しく出迎え、ニコニコと微笑みを浮かべる。


「ああ、レヴィ……! アリスが……アリスが…………!」


 しかし、夫人の悲痛な叫び声にレヴィは急いで顔を上げる。
 それから彼は、驚きに目を見開いた。


< 121 / 234 >

この作品をシェア

pagetop