好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(どうして、どうして! どうしてお嬢様が!)


 彼の怒りが爆発しそうになったそのとき、伯爵がアリスの部屋から出てきた。伯爵は心底まいったという様子で、深いため息を吐いている。


「旦那様、お嬢様に一体何が……!」

「レヴィ……。すまない、心配させたね」

「そんなことは良いのです! お嬢様に一体何があったのですか?」


 伯爵は視線をさまよわせ、肩を落とす。


「――――ついてきなさい」


 二人はすぐに執務室へと場所を移した。
 しばらくの間、伯爵は何事かを逡巡しながら眉間に手を当て続ける。


「旦那様」

 レヴィの焦れったさが頂点へと達したそのとき、ようやく伯爵は、重い口を開いた。



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