好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「メリンダ、大丈夫? さっきからうなされてるみたいだけど……」


 そのとき、反対側のベッドから躊躇いがちに声をかけられた。ルームメイトで同僚のサルビアだ。
 メリンダよりも身分の高い伯爵令嬢だが、気さくで優しく頼れる姉御肌である。


「サルビア……ごめんなさい、起こしちゃったのね」

「良いけど。どうしたの? 悩みがあるなら聞くわよ?」

「え? そ、れは……」


 ステファンのことを誰かに相談したい――――けれど、正直に話すことも躊躇われる。
 相手はなんと言ってもこの国の王太子で、下手をすれば首が飛びかねない相手だ。サルビアを巻き込むのは忍びない。

 第一、言ったところで信じては貰えないだろう。ステファンは公爵令嬢との婚約が決まったばかり。こんなタイミングで別の女性にうつつを抜かすだなんてありえない。メリンダ自身、未だに現実を受け止められないというのに。


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