好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「――――お父様から既に聞いてると思うんだけど……私、失敗しちゃった。夫に嫌われちゃったの」


『君を愛する? 何を愚かなことを。君に求めるのは貴族の妻という形だけだ。それ以外、全く期待していないよ。……寧ろそんな奇特な人間が存在するのか? ただの世間知らずなお嬢様である君を?』

『君の世話など知ったことか。自分で手配すればいいだろう? そんなことをしてくれる人間がいればの話だが』

『悔しかったら君も男を連れ込んだらどうだ? 僕は全く気にしないよ。そんな物好き、居るはずがないからね』


 話の内容とは裏腹に、アリスの声はひどく明るい。気丈に振る舞っているが、声がかすかに震えていた。彼女が今、とても無理をしていることが――――アリスの深い悲しみが伝わってくる。切なさのあまり、レヴィは胸を掻きむしりたくなった。


「自分なりに頑張ったのよ? ちゃんと夫婦になろうって。たとえ契約結婚になったとしても、お飾りの妻としての務めを果たせるように良好な関係を築こうって思ったの。
だけど、夫は私の全てが気に食わないみたいで……。ごめんね、レヴィは私に幸せになってほしいって願ってくれていたのに」


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