好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(悔しい)


 アリスにこんな言葉を言わせてしまったことが。
 アリスに辛い思いをさせたことが。

 もしもあの夜、レヴィが彼女の想いに応えていたら、こんなことにはならなかったのかもしれないのに――――レヴィは眉間に皺を寄せながら、壁をドンと強く殴った。


「お嬢様は何一つ悪くありません! 悪いのは……悪いのは全て私です! 私が、貴女の願いを叶えなかったから……だから」

「レヴィは何も悪くないわ」


 アリスの声がレヴィを優しく包み込む。扉で遮られて見えないが、彼女はきっと穏やかに微笑んでいるのだろう。あまりの温かさにレヴィは目を見開き、それから胸をギュッと押さえた。


「嫁いでみて分かったの。全部、レヴィの言うとおりだった。
もしもあのとき、レヴィが私を連れて逃げ出していたら、お父様やお母様、領地のみんなに恐ろしいほど迷惑をかけてしまったと思う。私、現実が見えていなかったのよね。本当、世間知らずのお嬢様だったんだって思い知ったわ」

「お嬢様……」


< 131 / 234 >

この作品をシェア

pagetop