好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 レヴィの心境は複雑だった。

 アリスにはいつも夢と理想の詰まった世界で生きてほしいと思っていた。そういられるよう、心を尽くしてきた。社会や現実の闇や汚い部分からとことん遠ざけ、綺麗な部分だけを見せてきたのだ。

 その結果、アリスはレヴィと生きる未来を望んだ。それが間違っていたとは思わない。


 しかし、アリスは侯爵との結婚をとおして現実を知った。無理やり、一番つらい形で突きつけられた。

 今のアリスは、レヴィが知っていた頃のアリスとは違う。彼女は本当の意味で大人になったのだ。

 それを素直に喜ぶことができない――――そんな現状があまりにも辛かった。


「だからこそ……だからこそ私、怖いの。これから私を待ち受けている未来が見えて、とても怖い」


 やがて、アリスのすすり泣きが聞こえてくる。レヴィは静かに息を呑んだ。


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