好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「お嬢様――――私の愛しい、アリス様……」


 レヴィがアリスに触れる。頬に、額に、唇に、首筋に口づけながら、彼は愛を囁く。


「貴女には私が居ます。もう決して離れはしません」


 指を、視線を絡め、二人もつれ合うようにしてベッドに沈む。熱い吐息が狭い部屋に木霊し、部屋をしっとりと温める。


「レヴィ……レヴィ」


 アリスはずっと泣いていた。それは嬉しさ故か、悲しさ故か、はたまた背徳感故かは分からない。
 けれど、ほんの少しでも良い。彼女の心が軽くなれば――――救われてほしいとレヴィは切に願う。


「愛しています、アリス様」


 月が満ちる。闇夜に静かに沈んでいく。
 その夜、レヴィの部屋の扉が再び開くことはなかった。


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