好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「『君を愛する? 何を愚かなことを。君に求めるのは貴族の妻という形だけだ。それ以外、全く期待していないよ。……寧ろそんな奇特な人間が存在するのか? ただの世間知らずなお嬢様である君を?』

『君の世話など知ったことか。自分で手配すればいいだろう? そんなことをしてくれる人間がいればの話だが』

『悔しかったら君も男を連れ込んだらどうだ? 僕は全く気にしないよ。そんな物好き、居るはずがないからね』

――――そう仰っていましたわね。ですから、連れて参りました。私を愛し、世話をし、共に居てくれる人を」


 これまでに見せたことのない表情でアリスが笑う。彼女の視線の先には、黒髪の――――自身よりも数段美しい男性が控えていて、侯爵は静かに息を呑んだ。


「はじめまして、旦那様。本日より、奥様のために伯爵家から参りました。レヴィと申します。以後お見知りおきを」


 アリスの幸せはレヴィが必ず守り抜く。
 たとえ、どんな結果になろうとも。

 一人より、二人で――――。

 レヴィは不敵に笑いつつ、アリスの手をギュッと握った。
 
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