好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「私のお母さんが言っていたわ。ジェラルド様は偉い人だから、話しかけちゃいけないんだって。なにか言われても、聞かれたことにだけ答えて、しっかりと頭を下げていなさいって。
それなのに、メアリーはいつもジェラルド様と一緒にいるでしょう? いつも友達みたいに普通にお話しているし、それっておかしいと思う」

「おかしい……」


 それは幼いメアリーにとって衝撃的な一言だった。自分が当たり前だと思っていたことが、実は当たり前じゃなかった。そんなこと、とてもじゃないが受け入れられない。

 彼女は急いで母親の元へ向かい、事の是非を問いただした。


「あぁ……うん、そうね。その子の言っていることのほうが正しいわ。ただ……なんて説明すれば良いのかしら?」


 母親は困ったように笑いつつ、メアリーの頭をそっと撫でる。答えづらい質問なのだろうか? 視線が不自然に泳いでいる。
 メアリーは頬を膨らませつつ、母親に向かって身を乗り出した。


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