好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 彼女とて、好き好んでジェラルドと他人行儀になりたいわけではない。

 けれど、これまでが間違っていたと知った以上、元通りには戻れない。きちんと線引きをしなければならないと頭では理解している。自分なりに納得もしている。

 それなのに、ジェラルドに真逆のことを言われると対応に困ってしまうのだ。


「なんだよそれ。俺が良いって言ってるのに、お前には関係ないってこと?」

「そうよ。坊ちゃまが良くても、他の人にとっては良くないんだもの。だから、わたしはもう、坊ちゃまとは遊べない。これからは侍女として、慎ましく真面目に生きていくことにします」

「……全っ然、納得できない」


 ジェラルドは瞳をキリリと釣り上げて、ふいっと勢いよく踵を返す。


「納得できなくても、そうしなくちゃいけないんだよ! じゃなきゃ、注意されちゃうんだもん! 分かった?」


 メアリーの返事を無視し、ジェラルドはずんずん離れていく。胸にわだかまりを抱えつつ、メアリーは小さくため息を吐いた。
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