好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「――――失礼いたします」


 ジェラルドの言う通り、これを命令だと捉えるならば、いつまでも突っ立っていては逆に失礼にあたる。メアリーはソファに腰掛け、もう一度深々と頭を下げた。


「あぁ……顔を上げなさい。メアリーにそういう反応をされると、私もジェラルドも困ってしまうよ」

「けれど旦那様、わたしは侍女です。侍女の娘です。使用人は本来、こうあるべきだと教わりました」

「うん、そうだね。それは分かるよ。
ただ……とりあえず、お茶を飲みながら話そうか。美味しいお菓子を用意してもらったんだ」


 伯爵は歯切れ悪くそう言うと、パンパンと手をたたき、侍女たちを中に呼び寄せる。
 すぐに美味しそうな茶菓子やジュースが運ばれてきて、メアリーはゴクリと息を呑んだ。


(いけない。わたしったら)


 ジェラルドと兄妹のように過ごしていた頃は、こうしてお茶菓子を一緒に食べるのが日課だった。伯爵家のシェフが腕によりをかけて作ったケーキや、新鮮なフルーツを、なんのためらいもなく一緒に食べていた。

 けれど、知ってしまった以上、これまでが異常で、どれほど恐ろしいことをしでかしていたかを考えてしまう。メアリーはほんのりと青ざめた。


< 145 / 234 >

この作品をシェア

pagetop