好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「そろそろおやつの時間でしょう? これをジェラルド坊ちゃまのお部屋に持っていってほしいのよ」


 ベテラン侍女はそう言って、お茶菓子とティーポットの入ったカートをメアリーに指差した。


「え……? だけどわたし、お茶は淹れたことがないし、こういうのはちゃんとした侍女の人の仕事で……」

「まあまあ、固いことを言わないで。貴女が行ったら坊っちゃまが喜ぶでしょう? 主人の願いを叶えるのも、侍女の仕事よ」


 クスクスと笑い声を上げながら、ベテラン侍女はメアリーの背中をポンと押す。


「良い? 坊ちゃまから同席を求められたら、断らずにちゃんとお相手するのよ。それだって侍女の仕事なんだから」

「本当に? そんなことをして良いんですか?」

「ええ、もちろん! 坊ちゃまったら、最近は本当に寂しそうにしていらして、旦那様も奥様も、みんなが心配しているんだから。元気づけてあげて」


 ベテラン侍女の言葉に、周りの侍女たちも一斉にウンウンと頷く。メアリーは申し訳なくなってくると同時に、なんだか嬉しくなってくる。


「分かりました。それじゃあ行ってきます!」


 足取りも軽やかに、彼女はジェラルドの部屋に向かった。


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