好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
***


 ジェラルドの部屋の前に立ち、深呼吸を一つ。コンコンコン、とノックをする。

 これまではこの部屋を訪れるのに緊張など一つもしなかったのに、仕事だと思うと妙にかしこまってしまう。周囲をソワソワと見遣りつつ、メアリーはじっとその場で待った。


「……は〜〜い?」


 待ち続けることたっぷり数秒。ややして気だるそうな声が返ってきた。
 メアリーはゴクリと唾を飲み、「お茶をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」と声をかける。

 すると、すぐにバタバタと足音が聞こえてきて、扉が勢いよく開けられた。思わぬことに、メアリーは目をパチクリと瞬かせ、そっと首を傾げてしまう。


「あの、お茶を……」

「メアリーが淹れてくれるんだよな、な?」


 ジェラルドが食い気味に確認してくる。メアリーはおずおずと頷いた。


「ちょうど飲みたいと思っていたんだ! 入ってくれ!」


 それは本当に久々に見る嬉しそうな表情で、メアリーは思わず笑ってしまった。

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