好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「茶菓子も一緒に食べよう。これ、完全に二人分入ってるだろう?」

「どうだろう? 坊ちゃまに同席を求められたときはお相手するようにって言われたわ」

「ならそうだよ。一人で食べても美味しくないし、メアリーも食べて」


 茶菓子の入った皿をズイとメアリーに寄せつつ、ジェラルドは嬉しそうに瞳を細めた。


(一人で食べても美味しくない、か)


 もうずっと、そういう気持ちでいたのだろうか? メアリーはコクリと頷きつつ、小さなクッキーを口に運ぶ。


「……そうだね。二人で食べると美味しいね」


 ほんのりと甘いクッキーはなんだか懐かしく、とても優しい味がした。
 メアリーはふと、最近食事が味気なくなったことを思い出す。意識して考えないようにしていたけれど、メアリーだって本当は、ジェラルドと距離ができて寂しかったのだ。


「だろう? っていうか、その坊ちゃまっていうのも止めろよな。せめて二人きりの時はジェラルドって呼んでよ。じゃないと寂しいし……悲しいだろう?」


 ジェラルドの話を、声を聞いてくると、メアリーまで心が苦しくなってくる。


「……分かった。みんなには内緒ね。周りに誰もいないときに、コッソリとなら」


 その瞬間、ジェラルドが勢いよくテーブルに突っ伏した。


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