好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「な……なるほど。よく分かったわ、ありがとう。
だけど、今の婚約者は捨てる前提なの?」

「そりゃあ王族と貴族を天秤にかけたら、基本は王族を取らなきゃって思うでしょう? 下手すりゃ一族まとめて憂き目に合わされる可能性だってあるし、本気で乞われて断れるような相手じゃないしね。
でもそれは、あくまで妄想だからそう思うだけで、そもそもそういう事態に陥らないようにするかな。これでも婚約者のことを大切に想っているからね。家族のことも困らせたくないし」


 サルビアの話は夢物語のようであり、とても現実的だった。彼女の話を聞きながら、メリンダは段々と地に足が付いたようにな心地がしてくる。


 これまでメリンダが思い描いてきたステファンとの関係は、ただ互いを想い、想われ、愛を囁き合うという程度だった。その先のことなど、ちっとも考えたことがなかったことにはじめて気づく。


(わたしとサルビアのおかれた状況は違う。そもそもわたしはしがない男爵令嬢で、ステファン殿下の手を取れるような立場にはない。サルビアみたいに殿下との未来を想像することだって全くできない)


 つまり今、『どうしよう』を考えたところで意味はなく『どうすることもできない』状態というのが正しい。


< 16 / 234 >

この作品をシェア

pagetop