好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 それはあまりにも思いがけないことだった。メアリーは大きく目を見開き、両手をパッと頬に当てる。恥ずかしさのあまり全身が燃えるように熱くなり、彼女は首を横に振った。


「まさか! そんなこと、あるはずないでしょう?」

「えーー、どうして? 絶対に不可能ってわけじゃないでしょう?」

「不可能よ! 貴族と平民が結婚するなんて、世間が――――旦那様が認めっこないわ。わたし自身、そんなこと考えたことないし」

「あんなに好かれてるのに? ジェラルド様ったら気の毒〜〜」


 明るく軽快な口調ではあるが、なんとなく、みんながメアリーを快く思っているわけでないことが伝わってくる。

 権力者に好かれることは良いことばかりではない。周囲から要らぬやっかみを受けることだってあるのだ。


(そっか……これからはジェラルドともう少し距離を置かなきゃ、かな)


 不要なトラブルは避けるに限る。
 分かっていても、メアリーの胸が小さく軋んだ。
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