好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「ありがとう、サルビア。なんだか眠れる気がしてきた」

「あらそう? 良かった。お役に立てたなら光栄だわ」


 サルビアはニコリと笑うと、しっかりと布団を被り直す。メリンダはそんなサルビアの様子を見つめつつ、ゆっくりと深呼吸をし、それから静かに目を瞑った。


『メリンダ』


 頭の中でステファンの声が優しく響く。唇にしっとりとした温もりが押し当てられ、頬を愛しげに撫でられ、抱きしめられたときの驚きと幸福感がありありと蘇ってくる。


(――――ああ、なんて幸福な夢なの)


 ステファンはメリンダの願望を叶えてくれた。
 たった一度だけ。もう二度と同じことは起こらないだろう。

 だとしたら、今後どうしたら良いかを考えるのは不毛な努力だ。そんなことに気力を使うぐらいなら、この幸せな経験を覚えておくことに全力を注いだほうがよほど良い。


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