好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「メアリー、無理をしないで。まだ休んでいていいんだよ?」


 伯爵や同僚たちがメアリーに優しく声をかける。誰もがメアリーを気の毒に思っていたし、彼女を責めるつもりなど微塵もなかった。

 けれどメアリー自身は『休んでいい』と言われるたびに、大きな絶望感に襲われてしまう。


(わたし、ここに居たらいけないの?)


 働かなければ――――このままでは、ここに居る理由が無くなってしまう。奪われてしまう。
 メアリーの全てが消えてなくなってしまう。


 そう思うからこそ、寂しさ、悲しさを誤魔化しながらでも、メアリーはがむしゃらに働く。
 少しでもメアリー自身に価値を見出してもらえるようにと願いを込める。


 そんな彼女の姿は見ていてとても痛々しい。
 周囲は段々と声がかけられなくなっていく。孤独感が一層強まっていく。
 完全な悪循環に陥っていた。



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