好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(わたし、これからどうしたら良いんだろう?)


 生まれてからずっと母親と二人で使っていた部屋で一人、メアリーは膝を抱える。

 いつ暇を出されるのだろう? そのまえに自分で出ていくべきなのだろうか――――考えれば考えるほど、悪い方向に思考が働いてしまう。


(お母さん……)


 メアリーの母親は明るく優しく、いつも楽しそうに笑っていた。事あるごとに『私は幸せ』だと口にし、メアリーのことを抱き締めてくれた。こうして幸せに生きられることを感謝しなければならないと、いつもそう口にしながら。

 だから、メアリーも母親のように生きるべきだ。分かっている。分かっているのだが――――。


「メアリー!」


 そのとき、今この家から聞こえるはずのない声がして、メアリーは勢いよく顔を上げた。


「――――ジェラルド様……?」


 勢いよく開け放たれた扉の向こうに、王都に居るはずのジェラルドの姿が見える。メアリーは目を見開きつつ、ジェラルドの姿を呆然と見つめた。


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