好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「……どうしてここに?」

「どうして、じゃない! なんかあったら俺に言えって言っておいただろう?」


 ジェラルドはメアリーへ歩み寄ると、彼女の頭に手を乗せる。メアリーの目頭がぶわりと熱を持った。


「おふくろさんのこと、聞いたよ。なんで俺に教えてくれなかったんだ?」

「だって……言っても心配かけるだけだだと思って……」


 メアリーはジェラルドに、母親が亡くなったことを伝えられなかった。
 そもそもしばらくの間、手紙を読むことも、書くことだってできなかった。
 なんと書けば良いか分からなかったし、彼に心配をかけたくなかった。
 それに、手紙を読めばジェラルドに会いたくなってしまう。彼の温かさを思い出し、縋りつきたくなってしまう。
 だからこそ、考え事をせずに済むよう、ひたすら仕事に打ち込んでいたのだが。


「心配? するよ! 当然だろう? だけど俺は、お前を一人で泣かせたくない。悲しんでいるのに、側にいれないなんて嫌だよ」


 ジェラルドがメアリーを抱き締める。メアリーは静かに息を呑んだ。


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