好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「わたし、平気よ。ちゃんと仕事だってできてるもの。泣いてだっていないし」

「平気じゃない。母親を――――大好きな人を亡くして悲しくない人なんて居ないよ。だから、平気なふりなんてしなくていい。落ち込んでいい。悲しんでいいんだ」


 ぬくもりが、ジェラルドの言葉が、メアリーの心に染み込んでいく。
 けれどメアリーは、大きく首を横に振った。


「だけどわたし、仕事をしなくちゃ……! 頑張らないと、お母さんだけじゃなくて、わたしの居場所が、仕事までもがなくなっちゃう! わたし、もう一人ぼっちなのに。他に頼れる人も居ないのに。ここが無くなったら、わたし……わたしは…………」

「俺がいるだろう?」


 ジェラルドが笑う。それはあまりにも明るく、憂いの全くない表情で。
 メアリーは瞳を震わせ、それから顔をクシャクシャにした。


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