好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 母親が亡くなったそのとき、メアリーは底しれぬ不安感に襲われ、自分の存在意義が分からなくなった。漠然とした不安はやがて、目から光を、耳から音を奪い、心をがんじがらめにしていく。


(そっか……みんなが『休め』って言っていたのは、わたしが要らないからってわけじゃなかったのね)


 ジェラルドの言葉を聞き、メアリーはようやく、周囲がメアリーを心から心配して声をかけてくれていたことを思い出すことができたのだった。


「ありがとう、ジェラルド。本当はわたし……お母さんが居なくなって寂しかった。とても……悲しかった」


 この数日間、メアリーはずっと強がってきた。張り詰めていた糸がぷつりと切れたかのように涙が溢れ、メアリーの頬を止めどなく濡らす。


「そうだろうな。俺も悲しい。……もう会えないなんて寂しいな」


 母親が亡くなって以降、沢山の人にお悔やみの言葉をかけられてきた。ジェラルドのそれはとてもシンプルだが、メアリーの胸にまっすぐ突き刺さる。彼がメアリーと真に同じ気持ちなのだと伝わってきた。


(悲しいのはわたしだけじゃない)


 母親を失ったという事実は変わらない。けれど、その喪失感は形を変え、埋めることができるものらしい。慰め、慰められているうちに、心が少しずつ穏やかになっていく。

 メアリーはジェラルドを抱き締めつつ、ボロボロに欠けた心が修復されていくのを実感していた。
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