好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

7.心の準備

 ジェラルドはそれからしばらくの間、メアリーのことを抱き締めてくれていた。
 はじめはそれで良かったものの、段々と精神状態が落ち着いていくにつれ、メアリーは居たたまれない気持ちになっていく。


(どうしよう……これ、どうしたら良いの?)


 背中を、頭を優しく撫でられ、ちっとも止まる気配がない。放って置いたら、ジェラルドは延々とメアリーのことを甘やかし続けるだろう。

 嬉しい――――けれど恥ずかしい。

 なんと言えば良いかも分からず、メアリーは真っ赤に染まった頬をジェラルドの胸に埋め続けた。


(……良い香り)


 彼の服から香ってくるのは上品で甘いコロンの香りだ。王都で流行っているものだろうか? 昔はちっとも洒落っ気がなかったのに、いつの間にか色気づいてしまったらしい。


(一体何の……誰のために?)


 思わずそんなことを考えて、メアリーの胸がツキンと痛む。

 誰か好きな人でもできたのだろうか? その人のために変わったのだろうか?

 ――――仮にそうだとしても、平民の自分には関係ない。主人の私生活を詮索するなど侍女失格だ。愚かなことを考えた自分が、メアリーはひどく腹立たしかった。


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