好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(それにしても、ステファン様はどうしてあんなことをなさったんだろう?)


 彼は『メリンダを想っている』と言っていた。その気持がどこまで本当なのか、メリンダには知る由もない。

 ただ、あのとき、あの瞬間のステファンは、メリンダだけのものだった―――――メリンダはそんなふうに思いたかった。

 彼に心から愛されていたのだと想像し、この記憶を甘いだけのもので終わらせたかった。


(――――わたしも、ステファン殿下のことが好きです)


 昼間、言えずに飲み込んだ言葉を心のなかで呟いて、メリンダはそっと涙を流す。

 もしも素直にそう言えたなら、一体どんな未来が待っていただろう――――いつもならば幸せな妄想のはずなのに、今夜はそうは思えない。
 自嘲気味に笑いつつ、メリンダはようやく眠りについた。

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