好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「それはそうなんだけど! 一緒にいると欲が出るっていうか……本当は俺、結構ギリギリなんですけど」

「ギリギリ? なにが?」


 不思議に思いつつ、メアリーはジェラルドをそっと見上げる。
 すると、濡れた瞳がメアリーのことをまじまじと見つめていた。

 熱い眼差し。ジェラルドの喉が上下する。
 唇を、頬を、額を優しく撫でられているかのような心地がし、メアリーはそっと身を捩る。それはまるで、捕食される直前の動物のような気分だった。


(ギリギリって……ギリギリって…………)


 先ほどの問いかけに明確な答えを貰えたわけではない。けれどメアリーは、これ以上詳細を尋ねたいとは思わなかった。


「……長いな。あと二年半か」


 先ほどとまったく同じ言葉を繰り返し、ジェラルドは大きくため息を吐く。
 彼はメアリーをちらりと見遣り、それからギュッと抱き締め直す。


「――――今のうちに、ちゃんと心の準備をしておけよな」


 次いで紡がれた別の言葉に、メアリーの喉が熱く焼け付くような心地がした。


(準備ってなんの?)


 ついついそう尋ねたくなるが、聞けば後戻りができなくなる。
 メアリーはグッと言葉を飲み込みながら、何も分からないふりをした。
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