好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
***


 厨房でティーセットと茶菓子を受け取り、いそいそとカートを準備する。
 メアリーは足取りも軽く、意気揚々と執務室へ向かった。

 執務室の前、扉の向こう側からは、ジェラルドと伯爵の声が聞こえてくる。穏やかな談笑。入室しても差し支えない様子だ。


「失礼致します」


 ノックをし、扉を開ける。
 すぐに伯爵とジェラルドから温かく迎え入れられた。


「ありがとう、メアリー。待っていたよ」


 伯爵が微笑む。メアリーは恭しく礼をして、その場でお茶を淹れはじめた。


「君たちがまだ幼かった頃、ここでお茶を飲んだことを覚えているかい?」

「もちろんですわ、旦那様。あの頃から変わらず良くしていただいて、本当に感謝しております」


 この部屋にジェラルドと共に呼び出されたのは9年も前のこと。けれど、メアリーにはまるで昨日のことのように思い出すことができる。

 当時のメアリーは今とは違い、侍女として働きはじめたばかりだった。
 そのせいで遊び相手がいなくなってしまったジェラルドが、父親を使って仕事を止めさせようとしていたのである。


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