好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(あのときは嬉しかったなぁ……)


 伯爵はメアリーのことを実の子供のように思っていると話してくれた。大人になった今もあの頃と同じというわけにはいかないが、彼からは未だに親愛の情を感じている。


「ふふ……そうだね。
けれど、君たちはすっかり大人になった。そろそろ、将来のことを考える時期だ」


 伯爵はそう言って、ジェラルドのほうをちらりと見遣る。彼はほんのりと目を見開きつつ、父親のことを見つめ返した。


「父上、将来のこととは……」

「ジェラルド――――おまえに縁談を用意したんだ」


 その途端、執務室に奇妙な沈黙が落ちる。メアリーはティーポットを抱えたまま、呆然と目を見開いた。


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