好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(え……?)


 心臓がバクバクと嫌な音を立てて鳴り響く。
 伯爵の言葉が、状況が受け入れられない。メアリーはゴクリと唾を飲みつつ、ジェラルドと伯爵とを交互に見遣った。


「縁談? ……俺に縁談? 本気で言っているのか?」

「そうだ。お前ももう17歳。婚約者がいてもおかしくない年齢だろう?」


 淡々と言葉を紡ぐ伯爵に対し、ジェラルドの態度はどこか反抗的だ。


(――――いけない。わたしはわたしの仕事をしなきゃ)


 二人の会話の内容は気になるが、本来ならばメアリーが聞いてはいけないことだ。

 メアリーはジェラルドたちから意識を逸し、必死にお茶を淹れようとする。しかし、身体が思うように動いてくれなかった。

 プルプルと手が震えてしまう。目頭がグッと熱くなる。
 なんとかカップにお茶を注ぎ、二人の前にそっと差し出す。


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