好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(わたし、これからどうしたら良いんだろう?)


 近い未来、ジェラルドはこの家の当主となる。結婚をし、父親から爵位を受け継ぎ、伯爵として領地を治めることになるはずだ。
 そのとき、メアリーはこの屋敷に――――彼のそばにい続けることができるだろうか?

 ジェラルドが別の女性を愛することを受け入れ、平気なふりをして笑い続けることができるだろうか?


(無理だろうなぁ……)


 メアリーはそれほど人間ができていない。
 第一、ジェラルドに対する想いは、そんなにもちっぽけではなかった。


 夜になり、みんなが寝静まった頃、メアリーは一人屋敷の外に――――屋根の上へとよじ登る。子供の頃、ジェラルドに教えてもらったお気に入りの場所だ。


『悩みがあるときは、高いところに行くと良いんだってさ。低い位置からじゃ見えないものが見えてくるんだって。まあ、父上に見つかったら怒られるだろうから、俺たちだけの内緒な』


 遮るものがなにもない夜空は美しく、星の瞬きはとても優しく感じられる。
 下方に広がる灯火は、ジェラルドが領主として守るべきもの。あの灯りの一つ一つに、たくさんの領民たちが存在するのだ。


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