好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「他の女と結婚するなんて絶対嫌だ。俺にはメアリー以外、考えられない」


 勢いよく身体を抱き寄せられ、メアリーは静かに息を呑んだ。


「わたし以外、って……」

「言葉どおりの意味だよ。子供の頃からずっと、メアリーのことが好きだった。俺が結婚したいと思うのはメアリーだけだ。……気づいていただろう?」


 ジェラルドの言葉にメアリーの胸が甘く疼く。
 彼の気持ちに気づいていなかったと言ったら嘘になる。けれど、だからといってなんになるというのだろう? 事実、彼は他の女性との婚約が決まっているではないか。


「だけどね、ジェラルド――――」


 その瞬間、吐息ごと反論の言葉を塞がれる。
 頭を強く押さえられ、全くと言っていいほど動かせない。


(なにこれ、どういうこと?)


 唇に、生まれてはじめて味わう柔らかな感触。しっとりとした温もり。
 ふと見上げれば、ジェラルドの濡れた瞳と視線が絡む。

 驚きと戸惑いのあまり、状況が全く理解できない。感情が上手く処理できず、虚無に近い状態だ。


「メアリー」


 口づけの合間、ジェラルドがメアリーの名前を呼ぶ。
 愛しげに、とても狂しげに。

 メアリーの瞳から涙が零れ落ちた。
< 192 / 234 >

この作品をシェア

pagetop