好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「どうして私がここに来たか、聞いてくれる? そのうえで、この屋敷のことを教えてくれたら嬉しいのだけど」

「え? えぇと……はい。わたしでお答えできることなら」


 アリティアの来訪の目的は気になっていたところだ。教えてくれると言うならば、是非とも聞きたいところである。


「私の母はね、結婚相手の顔も人となりも知らないまま、侯爵家に嫁いだの。だけど、お世辞にも幸せな結婚生活とは言えなくてね……侯爵には別に愛人がいたし、使用人たちもみな冷たくて」


 愛人という一言に、メアリーは思わずドキッとしてしまう。

 もしもジェラルドが侯爵を説得できなかったとしたら――――メアリーが彼の愛人になることは決してありえない未来ではない。もちろん、メアリーがどう動くかによって、道は変わってくるけれども。


「だから私は、母みたいな想いはしたくないなぁって思ったの。……別に、恋愛結婚をしたいだなんて高望みをしているわけじゃないのよ? ごく普通の政略結婚で良いんだけど、ちゃんと自分の目で確かめて、きちんと納得したうえで結婚したいって思ってる。
父も母も、私の幸せを望んでくれているしね」


 どこか悲しげなアリティアの様子に、メアリーの胸が締め付けられる。

 彼女が結婚に望んでいるのは、最低限の小さな幸せだ。
 メアリーはグッと唇を引き結んだ。


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